長野県医師会は、「みんなで考えよう人生会議」というテーマで、テレビ信州において特別番組を放送しました。例年開催している「在宅医療シンポジウムin信州」のテレビ版です。オンエアーは、11月13日(土)午後2時半から約1時間。放送された内容のダイジェスト版を記事としてお届けします。すべての内容を知りたい方は、WEB動画もアップしていますので、こちらをご覧ください。

 当日の番組進行役はフリーアナウンサーの浅井みどりさん、コメンテーターとして本シンポジウムでおなじみのフリーパーソナリティー武田徹さん、そして長野県医師会在宅医療推進委員会委員長の杉山敦医師(中信地区)がスタジオ出演しました。さらに南信地区から後藤暁医師、東信地区から小松裕和医師がリモート出演。また、ドラマVTRを挿入するなど、わかりやすく、充実した内容です。「在宅医療」と「人生会議」について視聴者のご理解がもっと深まり、これからの長寿社会にお役立ていただければと思います。

■人生会議の重要性

 番組冒頭、長野駅前の街頭インタビューで「人生会議」という言葉をご存知ですかと通行人に呼びかけます。その結果、あまり知られていない現状が紹介されます。スタジオで杉山医師が次のように話します。「『人生会議』は現在、わたくしどもや厚生労働省で普及・啓発に力を入れている取り組みです。ご自身の医療・ケアについて、家族や親族などと話し合うことを『ACP(アドバンス・ケア・プランニング)』と言いますが、この愛称を『人生会議』と呼んでいます。『人生会議』とは、もしもの時のために、あなたが望む医療やあるいは望まないケアについて、家族や親族、医療・ケアスタッフなどと一緒に繰り返し話し合い共有する取り組みのことをいいます。」
 浅井アナから「エンディングノート」との違いについて、杉山医師に問いかけます。
「エンディングノートは終活の準備として人生の振り返りや遺言に相当するものも記す場合が多いと思います。その一部に事前指示書といって、受けたい医療について書いておく大切な部分があり、これをリビングウィルとも言います。いずれにしても、ご家族や親族、かかりつけ医などと人生会議を開き、話し合って共有することが重要です。前もって家族や親族、かかりつけ医などに自分の思いや希望を十分に伝え、共有しておかないと、たとえエンディングノートや事前指示書に書かれていても、必ずしもその内容が尊重されない場合があると言われています」。
 人生会議のポイントとしては、「ご自身の希望や思いだけでなく、自分が大切にしている時間や価値観、生き方についても、信頼できるご家族やご友人と共有しておきましょう。かかりつけ医や医療・ケアスタッフなどとも共有しておくのも大切なことです。もちろん、記録に残しておければさらに良いでしょう」とのこと。そして、高齢化社会のなか、人生会議を開くとき、大きく関わってくるのが「在宅医療」です。

■ドラマVTR「在宅医療のはじまり」

 武田氏より「まずこちらをご覧ください」とアナウンスされ、ドラマVTR第一幕「在宅医療のはじまり」が流れます。
 主人公である78歳の太郎さんは、ある日、胸の痛みを訴え、救急車で病院に搬送されます。治療のおかげで退院が決まり、病院の相談室でのシーン。主治医から、3日後の退院を告げられる太郎さん、妻と息子が同席しています。
太郎「まだ本調子ではないけれど、だいじょうぶですか。家に帰るのは嬉しいが…」
妻「そうねえ、私も持病があるから、面倒見られるかどうか…」
息子「もう少し病院にいるわけにはいかないですか?」
太郎「おいおい、それは勘弁してくれよ」
主治医「病状は落ち着いていますよ。家にいてもリハビリは受けられます。病院に来るのが大変なら、訪問診療を受けることもできます。太郎さんのかかりつけの先生は訪問診療もしてくださるから、私の方から手配しておきましょう」
長男「それならお袋も安心だな」
 自宅に帰ったら好きなハーモニカを吹ける、と喜ぶ太郎さん。家族みんなの笑顔で、第一幕は終わります。

■そもそも在宅医療とは?

 スタジオでは、杉山医師が在宅医療についての総論的な解説をします。
「在宅医療とは文字通り、ご自宅で医療を受けること。患者さんによっては有料老人ホームなどの高齢者施設も対象になります。在宅医療では医師や看護師の他、歯科医師や歯科衛生士、さらに薬剤師、栄養士、理学療法士などの専門職。そして、ケアマネジャーをはじめとした介護職が連携しながら、患者さんに必要な治療・ケアなどを行っています」。

■高森町・在宅医療の現場から

 では、在宅医療の実際はどうなのか。飯田下伊那地区で在宅医療を行っている高森町・後藤医院院長の後藤暁医師がリモート出演します。
 まずはVTR「後藤医師による在宅医療の様子」の映像が流れます。
 高齢化率30%を超える高森町で医院を営む後藤医師は、月に40~50人の患者さんに訪問診療を行っています。軽自動車に医療器具を積み込み、自らの運転で患者さんのお宅に向かう後藤医師。到着してからは患者さんの枕元で体調の変化や健康状態をチェック。ご家族に普段の様子を聞いたり、訪問看護師やケアマネなど様々な専門職とも情報交換をします。「患者さんの生活自体を支えることが在宅医療だと思います」と後藤医師は語ります。
 さらにリモート画面の後藤医師から、在宅医療には訪問診療と往診の2つがあること、その違いについての説明が続きます。

■医療情報共有システム「イズムリンク」

 在宅医療には、医師や看護師だけではなく、歯科医師や薬剤師、栄養士やケアマネジャーなどの職種が関わっており、このような多職種の連携のためには患者さんの情報共有が必要です。そこで、飯田下伊那地区の「イズムリンク」という診療情報連携システムについて後藤医師が紹介します。
 まず、VTR「イズムリンクism-Link紹介」の映像が流れます。
 イズムリンクは南信州広域連合が事業主体となり、250の医療機関が参加、登録患者数も35,000人以上です。

 患者さんの同意の元、さまざまな医療情報が共有されています。在宅医療に関わるスタッフ全員で患者さんを見守り生活を支えるための情報インフラであることが紹介されます。
 スタジオでは、杉山医師から、ほかの地域や大学におけるICT活用事例やもっと小回りのきくSNSによる情報共有の取組なども紹介されました。

■在宅医療・素朴な疑問に回答

 「退院後の在宅医療について。実際にどんな診療が行えるのですか?」と武田氏が後藤医師に質問を投げかけます。
「病院や診療所で行う診療の多くは在宅でも可能です。診察はもちろん、血液検査、点滴、経管栄養、酸素投与、人工呼吸器の管理、がんの疼痛管理なども行うことができます。また、薬剤師による薬の管理や栄養士による栄養指導なども行われています。在宅でできないことは、CTやMRI検査など大規模な設備が必要なことに限られます」。さらに患者さんの反応を問われ、「ありがたいとおっしゃっていただくことが多いです。特に、看取りの場合、住み慣れた場所で過ごすことができ、穏やかな最期を迎えられ、ご家族もご自宅で看取ることができて良かったと思われることが多いようです」。
 浅井アナからは在宅医療の手続きについて聞かれ、「まずはかかりつけ医にご相談ください。もし、かかりつけ医がいない場合は、各市町村に設置されている地域包括支援センターに相談してください」と切り出し、その後のフォロー体制や気になる費用面についても後藤医師から丁寧な回答が続きます。
 次に、ホームページ上で募集された在宅医療についての質問に両医師が答えます。息子夫婦の共働き・県外在住、認知症になった場合のケースなど、武田氏が読み上げて、回答がされました。
 後藤医師のリモート出演はここで終了。スタジオでは、在宅での看取りについて話題が移ります。

■在宅での看取り

 在宅での看取りは、住み慣れた家や施設で家族や親族に見守られながら、人生の最期を迎えるということ。杉山医師は「在宅医療を受けられている患者さんの多くがご自宅での最期を望まれています」。しかしながら、「2年前のデータによると、長野県内では最期をご自宅で迎えた方は12.2%と8人に1人です」と続けます。
 浅井アナから、このように聞かれます。「多くの方が在宅で最期を迎えることを望んでいる。しかし、近年は病院で亡くなる方が増えている。その矛盾を解消するためにはどんな事が必要となってくるのでしょうか?」
 杉山医師は「やはり、かかりつけ医を皆さんに持って頂きたいと思います。日頃から、かかりつけ医と連絡を取り合える関係をつくっておくこと、そして、もしもの場合の治療について自分の意思を
しっかりと示し、家族等で共有することが大切です」
 人生会議が重要な意義を持ってきます。

■ドラマVTR「人生会議を開こうとしたけれど…」

「人生会議」とは、もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組みのことをいいます。
 武田氏は「大事な話なのに、何かきっかけがないと家族で話をする機会はなかなかありませんよね」と感想を述べます。浅井アナも「まだまだ先の話だっていう思いが強いです。触れにくい内容でもありますし…」と続けます。
 そこで第二幕「人生会議を開こうとしたけれど…」が流れます。
 シーンの設定は、退院から2年、在宅医療を受けている太郎さんのもとに、息子さんがやってきます。父親に「人生会議」をしたいと唐突に話を切り出したのです。
息子「具合が悪くなったり、突然倒れることもあるだろ? 親父は、延命治療とかどう思う? 自分の思いを伝えられなくなったときに備えて、前もって受けたい医療について、家族やかかりつけの先生に伝えておくことが大事なんだって」
太郎「なんだ急に」
息子「親父も前に救急車で運ばれただろ、いきなり人工呼吸器とか付けるって言ったら親父はどうするんだ?」
太郎「お前は、わしがおかしくなるって思ってるのか(怒り始める)」
 第二幕は、息子に対する父親の「帰れ!」という怒声で終わります。これからのことを考えている息子の優しい思いが父親になかなか伝わりません。

■人生会議で大切にしたいこと

 人生会議を開く際、杉山医師は、次のようなことを大切にして欲しいと言います。「人生会議ではもしものときにの希望や想いだけでなく、自分が大切にしている時間、価値観や生き方に関することなども話題にできます。VTRのように、いきなり核心から入るのではなく、まずはご家族、親族、かかりつけ医などと、自分の性格や好きな食べ物、趣味などの話から始めてみてもいいかと思います」。いつも一緒にいる家族でも、価値観や将来の考えについては意外とわかってないかもしれません。だからこそ、そうして、話していく中で感じられる「それぞれの価値観や想いはたくさんあると思います。また、話し合う機会を増やしていくことで自然と尋ねやすく、本音で語れる雰囲気も生まれてくると思います」。

■ドラマVTR「もう一度、人生会議を開きます」

 第三幕は、いつも訪問診療に来ているかかりつけ医と訪問看護師に、息子が「人生会議」を開くことについて相談することから始まります。医師も看護師も、その想いに深く共感します。そして医師から太郎さんに話を切り出してくれることになります。
場面は変わり、太郎さんの自宅、医師の診察後の会話。
医師「太郎さん、人生会議ってね、自分の大切にしていることや最期の時まで続けたいことを家族や大切な人に知ってもらうことからなんですよ」
太郎「え? そうなんですか?」
医師:「その大切なことを守れるように、どういう治療を受けたいのか家族や私たち医師や訪問看護師、あとケアマネさんにも伝えて、その方法を一緒に考えてもらうんです」
太郎「そうなんですか。私てっきり延命治療するかしないのかって迫られているのかと思ってしまって…。住み慣れた自宅で最後まで家族と過ごしたい、そして静かに最期を迎えたいと思っているんですよ」
医師「息子さんともう一度話してみましょうよ。私の方から息子さんに連絡しておきますよ。 私も訪問看護師も一緒に会議に出席させていただきますね」
 ドラマのラストは、太郎さんを囲んで家族と医師、看護師が和やかに人生会議を開いているシーン。太郎さんの大切にしていること、趣味の時間、そして受けたい治療について共有することができました。

■「人生会議を開きましょう」リーフレットの活用

 杉山医師は「人生会議は家族だけで話し合ってもいい。でも、かかりつけ医や看護師が訪問した時に患者さんがポロッと本音が話すこともあります。そんな一言を私たちはチームとして大切にして共有するようにしています」と言います。
 その言葉を受けて武田氏は「(医療スタッフが)患者さんにとって心を許せる存在になっているということですよね。患者さんファーストで考えていらっしゃる。ありがたいことですね」。
 杉山医師は『人生会議を開きましょう』というリーフレットを手にします※PDFはこちら。「新型コロナ感染症の影響で、遠くから親族が集まるのは難しい状況ですが、このリーフレットを使って、まずは同居のご家族や夫婦など小さな単位で話し合ってみることを提案しています」。
 続けて、リーフレット作成に関わったひとりとして、長野県医師会、在宅医療推進委員会 副委員長で佐久総合病院地域ケア科の小松裕和医師がリモート出演。リーフレット作成のきっかけから、人生会議を開くにあたって重要となる5つのステップについて、ひとつずつ丁寧な解説がされました。

■人生会議を開くタイミング

 浅井アナから小松医師への質問。「小松先生は、実際に人生会議に立ち会われることも多いんですか?」
「毎週のように人生会議に立ち会う機会を与えてもらっています。多くの患者家族は状況が大きく変わってから、ご家族に決断を求められることが多々あります。たとえば、ご本人の意思表示ができなくなったり、認知機能が低下して答えられない場合があります。そんな時、延命治療につながる行為だけではなく、胃ろうをつくるか、経管チューブで栄養補給を行うかどうか。事前に人生会議を行っている家族は本人の思いを尊重して、決断を前にすすめることができます」。
 続けて武田氏から「身近に親族や友人がいない場合は。どうしたらいいですか?」と質問です。
「そういう場合は、かかりつけ医やケアマネージャー、施設の担当者などに自身の思いや希望を伝えて欲しいです。お一人様であってもご自身の大切なものは何かを伝えておくことが大事です」
 人生会議をいちばん最初に開くタイミングについては、杉山医師から「たとえば還暦のお祝いや退院したとき、ご家族が集まる機会に話し合いの場を持たれたらどうか」という提案がありました。
 小松医師からは、リモート出演を終える際「人生会議を開くのは簡単ではないかも知れません。ご病気をされたときなど、しっかりと主治医から病気の説明を受け、これからのことを大事な方と繰り返し話し合うようにしていただければ、と思います」とメッセージがありました。
「確かに実際に人生会議を開くのは難しいですね…私は息子と息子の嫁さんにはしっかりと伝えました。私はこういう死に方をしたいから、こうして欲しい…と。テレビをご覧の皆様も、ぜひ、これを実践して欲しいよね」と武田氏。さらに浅井アナが「そうですね、この番組がきっかけになれば、という風に思っています。杉山先生、最後に一言お願いします」。
「在宅医療と病院での医療が総力を挙げ、医療介護の専門職が力を合わせて地域でお世話する環境をつくるのが、地域包括ケアというものです。人生会議や在宅医療という医療があることを知って頂きかかりつけ医にご相談頂ければありがたいです。本日はありがとうございました」と杉山医師が番組を締めくくりました。